2018年3月15日木曜日

電気自動車時代の覇者はパナソニック、という可能性

エンタメから部品まで、パナの特徴が生きる"EV時代"
パナソニックは、車載関連ビジネスを成長の柱のひとつに据えている。

現在、同社のオートモーティブ事業の売上高は、2016年度実績で1兆3000億円、全社売上高の約18%を占める。2018年度の売上高目標に至っては、16年度から7000億円も積み上げる2兆円の売上高を目指しており、年平均成長率は業界平均の7%増を大きく上回る24%増を目指す。なお、2021年度には2兆5000億円の規模を目指している。

パナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社 副社長 兼 インフォテイメンメントシステム事業部長の上原 宏敏氏は、「コネクティビティによるクルマの情報化、自動運転によるクルマの電子化、そして環境対応でのEVの拡大といったクルマの進化のなかで、当社が持つ車載・民生デジタル技術やセンシング・画像処理技術、高度な電池・電源技術を生かすことができる。これにより、車載システム領域での事業を拡大し、業界を上回る成長を実現できる」と意気込む。

2018年1月に米ラスベガスで開催された家電見本市「CES 2018」でも、2030年ごろに実用化が見込まれているADAS(先進運転支援システム)のレベル5、つまり完全自動運転時代における車のあり方を想定した「次世代モビリティキャビン」を展示。デジタルサンシェードや空質調整付きシート、キャビンオートエアコン、リビング照明、AI・クラウド連携によるエージェント機能など、車内空間であっても、自宅リビングのような快適さを実現するデモストレーションを行った。

○自動運転時代はパナの時代?

10年以上先の未来だけでなく、直近の未来もパナソニックは忘れていない。

すでに実用化されている部分運転自動化のADASレベル2での利用を想定した「スマートデザインコックピット」では、4つのマルチディスプレイを同時にコントロールする高性能グラフィックスエンジンを搭載。ドライバーや助手席同乗者に必要な情報をそれぞれ表示したり、ディスプレイに触れることなく、手のひらや指の動きによるジェスチャーコントロールを実現する。

また、条件付き運転の自動化を実現するADASレベル3に対応した「スマートビジョンコックピット」では、エンジンを始動すると大画面HUD(ヘッドアップディスプレイ)にクルマの状態とドライバーの健康状態を表示。運転中は、パノラミックディスプレイにバックカメラ、サイドカメラの映像を表示し、死角の無い安全運転を支援する。

ここではドライバモニタリング技術を活用しており、カメラで捉えた映像から瞬きや表情などを、非接触のまま高精度で検出。ドライバーの眠気を予測したり、ステアリングに加えられた圧力を計測して、ドライバーの運転集中度を推定する同社の得意技術を採用している。あわせて、赤外線アレイセンサーによって、人の温冷感や温熱快適性を非接触で計測し、車内空調との連動によって「快適に覚醒状態を維持する」といった制御も自動的に行う。

上原氏は、「クルマの変化にあわせて、コックピットシステムも大きく進化していくことになる」と前置きした上で、「すでに、レンジローバーの新型SUVであるRange Rover Velarに採用しているデュアルディスプレイやHUDは、パナソニックが民生で培ったデジタルAV技術や、デジタルカメラのLUMIXによる光学設計技術を応用したもの」と話す。

例えばスマートデザインコックピットでは、樹脂製素材でありながら天然素材の質感を実現できるインネールディング技術を採用しているが、これもパナソニックが蓄積したノウハウを活用したものになる。

10年後の未来を見通した次世代モビリティキャビンでも、ライティング技術や空調技術など、パナソニックが住空間事業で培ってきた、よりよい暮らしを実現する技術とノウハウを活用する。これに車載システム開発力を融合させることで、「新たな移動空間を提供できる」(上原氏)という。

パナソニックのオートモーティブ事業は、単なる部品メーカーとしての動きではなく、むしろ自動運転時代の到来とともに、これまで同社が培ってきた家電技術、AV技術、住空間技術を活用できる場になるという捉え方をしている。この分野を垂直統合したメーカーはほぼなく、差別化を図れるだけでなく、同社にとって「クルマの数だけ、新たな居住空間が増える」というビジネスチャンス到来の時代ということになる。
○小型EVという可能性

もちろん、こうしたインフォテインメントに加えて、部品メーカーとしてのパナソニックの側面もある。米テスラとの協業によるギガファクトリーでのリチウムイオン電池「2170」の生産をはじめとするEV向けバッテリーのほか、各種センサーなどの自動運転に欠かせない技術領域は、元来のオートモーティブ事業というべきものだ。

そうした中で新たに提供するのが小型EVソリューション「ePowertrain」だ。CES 2018のパナソニックブームにおいても、このプラットフォームは関係者の間で注目を集めた展示のひとつになった。これは、4輪および2輪の小型EVの普及を目的に、バッテリー、電源、駆動装置といった同社が実績を持つEV向けデバイスを活用してプラットフォーム化したものだ。

求められる車両の大きさや、走行速度やトルクといった仕様に応じて、基本システムをモジュールのように組み合わせて利用できるという。具体的には、車載充電器、ジャンクションBox、インバータ、DC-DCコンバータによる「電源システム部」と、モーターによる「駆動部」で構成し、これらを組み合わせて使用する。

同社が、EVやPHEV(プラグインハイブリッド車)、HEV(ハイブリッド車)などの電動車向けに供給してきた電池や車載充電器、フィルムキャパシター、DC-DCコンバータ、EVリレーなど幅広い車載製品を活用したもので、すべてにおいて、実績がある技術を活用している点が特徴だ。

では、なぜパナソニックはEV向けプラットフォームの投入に踏み出したのか。ひとつは、インフォテインメントシステム同様に、パナソニックが家電やAV事業で培ってきたノウハウが生かせる領域であるからだ。

例えば、車載充電器やDC-DCコンバータの電顕システムは、テレビの電源基板設計技術やIHクッキングヒーターの電力制御回路技術を活用。モーターやインバータなどの駆動システムでは、エアコンの室外機などの電動コンプレッサによる高圧縮、高効率技術が活用されている。

また、電池システムでは、レッツノートなどで採用しているPC用リチウムイオンセルの安全機構や高信頼性構造を応用している。さらに、これらのコア技術を活用したシステムに、電費シミューションモデル技術を応用することにより、システム全体の電費予測を行い、ランニングコストの低減を図ることができるという。

●パナのソリューションがあれば小型EVは作れる時代に?
もう1点、注目しておきたいポイントが、ePowertrainは小型EVを対象にしたプラットフォームであるという点だ。

パナソニックは、一般車のEVの開発において、テスラやトヨタをはじめとする主要なグローバルカーメーカーと、がっちりと手を組みながらビジネスを推進している。一方の小型EV向けプラットフォームは、"手離れのいいビジネス"を推進する姿勢を明確にしたといっていい。

EV車はグローバルカーメーカーの取り組みが注目を集めているが、普及段階を想定した場合、連続での長距離走行を想定していないコミュニティカーの広がりが注目される。1人乗りや2人乗りなどの小型EVは、狭い道が多いエリアを走行したり、駅から家までの距離を自動運転で送迎するといった使い方が想定される領域だ。台数ベースで見れば、こうした小型EVが大きく伸長し、先進国のみならず新興国の需要も見通せる。

つまり、既存メーカーに限らず多くの企業がこの領域に参入する可能性があるといっていい。このプラットフォームを活用すれば、EVの心臓部となる電源および駆動に関わる部分はカバーでき、開発コストの削減や開発リードタイムの短縮に貢献する。EV開発に向けた敷居が大きく引き下がるわけだ。

家電ノウハウを活用する一方、テスラなどのグローバルカーメーカーとの実績を活かした「ePowertrain」が軌道に乗れば、パナソニックは小型EV車という新領域で重要な役割を担う企業へと躍り出ることにもなる。

「グローバルにEVの急速な需要拡大が見込まれているなか、従来の乗用車だけでなく、二輪EVや新しいタイプの超小型EVなど、地域ごとの様々な生活スタイルや用途に合わせた多彩なモビリティの登場が期待されている。ePowertrainは、二輪EVや、超小型EV向けに開発したプラットフォームであり、統合小型(Integrated compact)、高効率(High Efficiency)、拡張性(Scalable)に優れた省電力で安全性の高いパワートレインとして提供できる」(上原氏)

ePowertrainの事業は、今後のEVの普及を考える上で、極めて戦略的な取り組みだといっていいだろう。パナソニックの車載関連事業は、快適を追求するインフォテインメント事業と、安全と環境を追求する電動化、自動化の両面で成長戦略を描くことになる。

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