2018年8月24日金曜日

アングル:携帯通信料4割値下げならコアCPI下押し、日銀に逆風

[東京 24日 ロイター] - 消費者物価(除く生鮮食品、コアCPI)の見通しを7月末に引き下げたばかりの日銀だが、早くも新たな試練に直面する可能性が出てきた。菅義偉官房長官が携帯電話料金の40%値下げの必要性に言及したためだ。一律に引き下げが実施されたと仮定した場合、最大でコアCPIを約0.9%ポイント押し下げるとの試算もある。
仮に大幅な物価下押しが現実すれば、2%の物価目標を掲げる日銀にとって、達成時期がさらに先送りされる可能性も浮上しそうだ。こうした中で、携帯料金という特定の価格水準の変動と一般的な物価水準を巡って、日銀内で新たな議論が浮上する可能性も予想される。
菅官房長官は21日の札幌市での講演で、大手携帯電話会社は巨額の利益を上げているとしたうえで「競争が働いていないと言わざるを得ない」とし、「携帯電話料金は、今より4割程度下げる余地がある」と言及した。
市場では、こうした発言について、来年の統一地方選や参院選を意識したアピールとの冷ややかな見方も出ている。
ただ、固定電話や従来型の携帯電話(ガラケー)から相対的に料金が高いスマートフォンへのシフトが急速に進む中、携帯電話料金が家計に重い負担となっているとの指摘が、各方面から出ていたのも事実だ。
家計調査によると、2017年の世帯当たりの携帯電話通信料は、年間10万0250円と初めて10万円を突破した。
総務省は23日、情報通信審議会(総務相の諮問機関)に「モバイル市場の競争環境のあり方」など電気通信事業における競争ルールや消費者保護のあり方の見直すよう諮問した。
2019年6月にも中間報告を行い、同12月をめどにとりまとめを行う方向だが、総務省関係者によると、この中で携帯電話料金の値下げが議論に浮上する可能性は否定できいないという。
<物価上昇を吹き飛ばすインパクト>
家計の携帯電話料金に対する支出拡大を受け、コアCPIの算出において、携帯電話通信料のウエートも高まっており、現行の2015年基準では2.4%となっている。
菅官房長官が指摘した4割の値下げが一律に行われたと仮定して機械的に試算した場合、総務省によるとコアCPIを0.96%ポイント、エネルギーも除いたコアコアCPIを1.05%ポイントそれぞれ押し下げる要因になる。
調査対象には「ガラケー」や格安スマホも含まれ、データ通信量などによってもサンプルが異なるため一律値下げは現実的ではないが、通信業界関係者によると、携帯電話通信料に占める大手携帯会社のサービスの割合は大きい。
24日に発表された7月全国のコアCPIは前年比0.8%上昇、日銀が重視するコアコアCPIは0.3%上昇にとどまっており、大手携帯会社がそれなりの値下げに動けば、コアコアでマイナスに転落するインパクトをもたらす可能性も否定できない、という。
他方、携帯電話料金の引き下げによって家計の負担が軽減されれば、需要のシフトによってそれ以外の品目で値上げが行われる可能性がある。
格安スマホの普及による携帯電話会社間の競争激化を背景に、携帯電話機や通信料が相次いで値下げされた2017年、日銀も4月の「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で、「こうした事情による物価の下落は、やや長い目でみた一般物価の動向を規定するマクロ的な需給ギャップや予想物価上昇率とは、あまり関係のない部門ショック」と分析した。
あくまで「一時的な要因」との位置付けたが、日銀は今後もこうした個別物価の動向を含めて、物価の基調的な動向を丹念に点検していくとみられる。
その後も大手携帯電話会社による新料金プランの導入などを受けて、携帯電話通信料は低迷状況が継続。今回の官房長官発言によって一段の値下げも視野に入る。
部門ショックとはいえ、携帯料金の値下げが物価上昇を抑制し続ければ、実際の物価上昇を通じて高まっていくはずの企業や家計のインフレ期待にも悪影響が及びかねない。
大和総研の長内智シニアエコノミストは「政府は、もはやデフレ脱却よりも消費活性化にウエートを置いている」とみる。
政府・日銀間の意思疎通が良好なのか、市場では政策のチグハグさを指摘する声も出始めている。

(伊藤純夫 取材協力:中川泉志田義寧 編集:田巻一彦)

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